十和田市中央公園で、
めざす“とわだ”の未来について
語ってきました。
インタビュアー まず聞きたいのが、十和田市で最も課題だと思っていることと、将来どうしていくのかという十和田の未来(VISION)を教えてください。
畑中ひろゆき
課題はたくさんあって、高齢化や後継者不足、一流の素材が沢山あるのにブランド化が進んでいない点、観光客はたくさん来ているのに市内にお金が落ちていないこと、全国的に解消されていない商店街の空き店舗や空き家問題など山積みです。
一つ一つの問題、課題がすべて深刻で、すぐにでも取り組まないといけない。でも全国で色々な取り組みをしているけどなかなか解決できないことの方が多いですよね。
私はそれらの課題を解決するには方法は一つしかないと思っていて、「十和田市民全員参加」と「稼げる“まち”にする事」の両立。これに尽きると思います。
「高齢者は元気だけど若い人が去っていく」でもダメだし、「若い人は定住するけど高齢者に活気がない街」も将来を感じることができないですよね。
農家は儲かっているけど建設業は疲弊しているとか、その逆も然り。課題の一部が解決しただけで、本当の意味での「良い街」「住みたい街」「プライドを持てる自慢したくなる街」とは言えないです。
畑中ひろゆき
そのような背景や想いがあるので、最近口癖のように言っているのが「いいね!があふれる“まち”づくり」というキーワード。
色々な立場、年齢、職種を超えて『いいね!』を言い合える、応援し合える街にしたいというのが私のVISION・目指す十和田市の将来像です。
例えば、ITに詳しい若者が会社を作って、65歳以上になっても元気に活躍できる仕組みを作るとか、若者の起業やチャレンジを高齢者や経験豊富な専門家が応援する仕組みを作るとか、忙しい先生のために市独自で教員サポートの取り組みを進める。
宿泊施設が少ない課題に対して、空き家のリノベーションに取り組み、観光事業者に提供するなど、それぞれの得意分野を活かしながら十和田市が抱える課題に取り組み、成功事例を積み上げていく。
行政だけが先導するのではなく、市民、民間団体、行政の連携で取り組めば、今まで出来ていなかったことが「できた」「できた」の実績に変えていけると思っています。
その「できた」の連続が、子どもたちや十和田市に住む人たちの自信になり、さらなる取り組みの原動力やモチベーション維持にとって大切な財産になるはずです。
この、「十和田市民全員参加」と「違う立場の人を応援し合える、いいね!があふれる街」ができれば、好循環を継続的に起こすことができると本気で信じています。
インタビュアー
「稼げる“まち”」というキーワードも出ましたが、移住者でも、今いる住民にとっても、暮らしの満足度には「魅力的な仕事」が重要であるというデータがどの街、どの都道府県の住民意識調査でも出ていますが、畑中さんの考える「稼げる“まち”」とはどういうことですか?
観光・農業・建設業・その他の業種という、十和田市の基幹産業それぞれについて教えて欲しいです。
畑中ひろゆき
まず観光について言うと、世界に誇れる奥入瀬渓流や十和田湖、八甲田周辺環境を有していますよね。
それをただ見て帰るだけの観光じゃなくて、専門的な研究者も興味を引くような深い自然の魅力、アクティビティなど自然の中に入って十和田市周辺の魅力を楽しみ、コアなファンになりリピートしてくれる観光商品の開発や仕組みの醸成を推進したいです。
つまり、通りすがりの観光、どこかの目的地の経過地に十和田市があるのではなくて、十和田市に来るのが目的だという観光を創り出していくことです。
実際、十和田湖や奥入瀬渓流は来訪者が多いにも関わらず、宿泊している人は一部だけ。十和田市に泊まり、十和田や周辺市町村の夜を楽しみ、また十和田に帰ってくるような十和田をハブとした長期滞在型の商品が沢山あれば、それだけ街に落ちるお金も増えます。
そこで足りなくなるのが街なかの「宿泊施設」です。
現状、東北周遊の経過地になっていたり、十和田に来たのに市外に泊まっていたりするのは、十和田市に宿泊施設が少ないことが大きな要因の1つだと考えています。
需要があれば大きなホテルチェーンを誘致するのも良いかもしれませんが、私は「空き家活用」「空き店舗活用」「既存の宿泊施設のリノベーションやソフト面の改革サポート」などによって、地元の事業主が稼ぐことも十分可能だと思っています。
そういった、空き家や宿泊施設の少なさなどの「課題をチャンスに変える」取り組みは、ここ十和田市でならできると思います。理想論を理想で終わらせずに実現していくことが大切です。
公共交通、地域交通も観光を語る上で欠かせない要素ですよね。新幹線の七戸十和田駅、三沢空港などから十和田市、奥入瀬、十和田湖までのアクセスをどうするか。八甲田を含めた十和田湖、奥入瀬観光という見方もあると思う。
十和田市だけが良ければいいのではなく、周りと共栄する。でも観光としては弱い。近隣の市町とタッグを組みながらより良い改善策を探っていきたいです。
畑中ひろゆき
次に農業ですが、バラ焼き関連のプロジェクトで国内外飛んで歩いて、やはりまだまだブランド化ができていないと実感しました。
にんにくの名産地から来たよ!と自慢すると、「田子から来たの?」と言われたりする。さすが田子とも思いますが、違いますよ、十和田ですからって、今までもう何百回も言い続けてきました。
にんにく=十和田という認知も少ないくらいですから、ほかの農林水産物もブランド化が急務だと感じています。
認知=ブランド化という単純なものではないので、ほかのエリアとの差異化や、今十和田市が推進している十和田市六次産業化推進戦略の集大成として、認知~販売まで、入口から出口につながる戦略も推進したいです。
十和田市内でも六次産業化により収益を上げている事業主も出てきているので、成功事例を共有し他の素材や他の事業主も事例を積み上げられるよう協力体制を構築したいですね。
農林水産物のブランド化がどう「稼げる“まち”」につながるのかというと、例えば市場の価格が1割上がれば、利益率は1割以上上がる。経費は変わらず、利益が増える。結果として生産者の自由に使えるお金が増える、という視点でのブランド化の取り組みが必要と考えています。
「うちのものだけが優れている」という地域内で戦いあうのではなく、地域全体でブランド化をすることでより影響力は大きくなりますし、「十和田市民全員参加」というのは十和田市内で戦うのではなく十和田市全員が協力して世界で戦っていくという意味で、これからの売り先は市外、県外だけではなく海外も目指すべきだと思っています。
海外に販路ができれば、十和田市と県内各市町村が連携し、青森県中の良いものを背負って世界に出るという事も夢ではなくなります。
生活を肉体労働で支えてくれる農家さんが儲かる街。素敵じゃないですか。
インタビュアー
観光業、農業についての課題意識と目指す姿は分かりました。
私は「十和田と言えば建設業」というイメージがあるのですが、建設業についてはどうですか?
畑中ひろゆき
建設業は十和田のヒーローですよ。知っていましたか?
十和田の仕事で儲けているイメージがあるかもしれませんが、十和田の建設業って日本中から仕事をもらって十和田に雇用という形で経済的価値を落としてくれているのです。
インタビュアー
そうなのですか?
十和田がメインで、たまに市外の村とか町の公共工事をやっているのだろうなという勝手なイメージでした。
畑中ひろゆき
十和田の予算で儲けていると思われがちですが、そうじゃない。
確かに十和田の仕事もしているけど、十和田市外、青森県外の大きな仕事も受託しているのです。インフラを整えているという事だけではなく、雇用、税収、仕事づくりなど多方面で貢献しているのですね。
ですので、建設業については今課題となっている「社員の高齢化」「中堅不足による新入社員の離職率の高さ」「人材不足」などを一緒に解決できるよう、人材育成や市外に流出している若者の還流促進、また、一度青森を出たが戻ってきたい30代~40代のバリバリ働ける世代のUIターン獲得などの政策により、課題を根本的に改善する取り組みが必要と考えています。
魅力的な仕事や会社があれば、若者は必ず戻ってきてくれます。
インタビュアー
ありがとうございます。
では、その他の産業や業種については何かこうしていきたい、という想いや戦略はありますか?
畑中ひろゆき
一言でいうと、多様な産業の事業者と連携して「職業選択ができる“まち”」にしたい。
職業選択の幅が広いと、いろんな立場の人が戻ってこられると思う。
所得が多いことが理想の人もいれば、育児や親の介護で急な休みを許してくれる会社がいいという方、休みが多く取れるか?とか、「この業界で働きたい!」という方など多様なニーズがある。
そのニーズに応えるためには、観光・農林水産業・建設業だけではなく十和田市にある全ての事業者が一体となって「多様な職業選択」ができる街に育て上げることが重要で、そのためには新しい働き方や考え方を取り入れるための支援や先行事例構築など、行政と事業主が連携して行えることは多いはず。
また、業界や職種によって「儲かる街」にするための戦略は違うと思う。私が全部の分野で戦略があり全て把握しているわけではないので、その道の先駆者の意見も聞きながら、力も借りて実現していきたいですね。
インタビュアー
ありがとうございます。
それぞれの産業で「誰もが稼げる“まち”」に向かって十和田市民が一丸となって取り組んでいく。聞いていて胸が熱くなるお話でした。
畑中さんが長年取り組んできた、十和田市民ボランティアと一緒に、全国のご当地グルメを十和田に集めて十和田市の認知を上げるプロジェクトとつながるところがありますね。5000人以上のボランティアスタッフが集まったのも納得です。人口の1割が集まったわけですからね。
個人的に聞いてみたいので聞きますが、農林水産品の他にブランド化したい素材や商品ってありますか?
畑中ひろゆき
数えきれないくらい沢山あるよ。
にんにく以外にも根菜だけでも何個もあるし、農林水産品以外でも伝統工芸や加工品、お土産品もあるし。
でも特に最近ブランド化の可能性を強く感じたのは「日本酒」だね。
今年だけで2回台湾に行ったけれど、台湾は日本酒ブームで、結構なお値段で販売されていて評価されている。ロスとかニューヨークのバーでも、日本酒が評価されていて1杯2,000円とか、日本では1升瓶5000円以下で買えるのが奇跡だと思えるくらいの評価をされている。
十和田の日本酒、美味しいし独自性があるから、十和田の日本酒や生産品を一緒に引っ提げて世界に売りたい。
これも実現可能だと思っていて、例えば長年取り組んできた十和田のバラ焼き、上海のホテルオークラでメニュー化されているのですよ。他にも東南アジアだけでバラ焼きを出すお店が60店舗以上出来ている。
バラ焼きだけではなく、にんにく、黒ニンニク、根菜をはじめとした農林水産物、観光資源、日本酒など色々な商品に十和田のブランドを背負わせて世界に出せば、県外だけではなく世界から稼ぐ“まち”にもできる。それは行政だけだと出来ないから、民間事業者と戦略を練るところから実現していきたい。
インタビュアー
ありがとうございます。では最後の質問をさせてください。
課題と展望を伺ってきましたが、もう少し長期の5年から10年先の目指す姿を教えていただけますか?
畑中ひろゆき
基本は誰もが応援されチャレンジできる「いいね!が増える“まち”」なのだけど、長期的に言うと「3世代が暮らし、活躍できる“まち”」かな。
繰り返しになるけど、子どもだけでなく、子育て世代だけでなく、高齢者だけでなく、どんな立場の方でも活躍できる“まち”にしないと今後生き残れないと思っていて、「3世代が暮らし、活躍できる“まち”」は、今まで語ってきた「稼げる“まち”」「違う立場の人同士が応援し合える、いいね!があふれる“まち”」「多様な職業選択ができる“まち”」ができれば実現できると思う。
高齢者っていうのは、「この“まち”に暮らしているとこういう風な将来が待っている」というお手本になるから、高齢者がのびのび暮らし活躍している“まち”も大事だし、少子化時代において子育て世代からの支持も必須だし、教育環境や教員の支援、学校終わった後の居場所づくりも含めた教育体制整備や子どもの社会参加による子どもの生きがいやシビックプライド(十和田に誇りを持つ)の醸成も重要。
だから、「3世代が暮らし、活躍できる“まち”」を長期的に目指すことが十和田市民の幸せや十和田市自体のブランド化に直結すると思っています。
インタビュアー
ありがとうございました。1時間という短い時間で色々な質問をしてしまいましたが、十和田市の目指す姿と具体的な取り組み案など聞けて良かったです。
青森県全域に十和田市のモデルが広がり、将来像に向かって実現されていけばいいなぁと感じました。